分野を超えたステークホルダーと考える
Tokyo
U100 Initiativeは、4月18日に「U100 Lunch Summit 2025.04」を開催しました。昨年度、U100 Initiativeに中心的に関わってこられた会員企業代表や関係者に加えて、新規のメンバーを迎え、ランチをしながら意見交換を行う貴重な機会となりました。当日は、目黒駅近くにある隠れ家的なレストラン「SHE meguro」に集合し、美味しい料理を前に意見交換を行いました。U100 Initiativeのメンバーでジャーナリストの高橋真樹が、その概要をレポートします。
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概要
U100 Initiativeが始まって1年が経ちました。昨年度のワークショップには、20社から合計100人が参加されました。それを受けて、新年度を迎えるいま、中心になったメンバーが情報交換をする場を設けることになりました。目的は、各社の悩みを共有したり、U100でこれからやりたいことを出し合ったり、業種を超えてつながったりすることで、U100の枠を超えて新しい動きを生み出していくためです。
私(高橋)自身、U100でGBJの柳瀬さんとつながったことで、昨年、GBJのイベントで講演させていただく貴重な機会を得ました。他にも、会社を越えた交流も始まっています。金田さんは挨拶で、U100を通じてこうした動きをもっと増やしていきたいと語りました。
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ランチセッション
挨拶の後は食事です。次々と運ばれてくるアジアンテイストのランチコースは絶妙な味で、会話も弾みます。
食事中には、新メンバーも含めて自己紹介タイムがありました。U100に集う人たちは、それぞれ熱い思いを持って、社会的なチャレンジをしている人ばかりです。この日も、国産の木材を加工して建材や家具を製造している会社の方や、エコハウス仕様でサウナ付き民泊を建てたメディア関係者の方など、ユニークな取り組みも紹介されました。
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今後の予定の紹介
ランチの後、金田さんから今年の予定の紹介がありました。概要を以下に紹介します。
・6月:旭化成ホームズの研究所で、木造ハイブリッド構造による非住宅建築を見学(協力:旭化成ホームズ株式会社/静岡県富士市)
昨年実施した際反響が大きかったため、今年も実施することになりました。
・7月:木材加工工場と伐採現場の見学
(協力:ファーストウッド株式会社/青森県六戸町)
新しくメンバーになったファーストウッド株式会社の木材利用の取り組みです。ファーストウッドは、青森の丸太の4分の1を扱って、住宅の非構造部材や家具などを製造しています。
・10月:外断熱ZEB庁舎、交流防災センターなどを訪問
(協力:株式会社エーシーエ設計、川上村役場/長野県川上村)
省エネ性能と快適性を両立した先進的な庁舎の事例です。
Workshop 2025.10 詳細 ※近日中に、U100 InitiativeのLINEオープンチャットにて告知予定です
今年度はこの他にも、いくつかのワークショップを実施する予定です。詳しい情報が分かり次第、サイトで紹介していきます。
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ステークホルダーダイアログ
次に、全体での課題の共有と意見交換が行われました。ある建設会社では、新しく「環境設計」部門を立ち上げたものの、コンセプトや組織体制のイメージが固まらず、社内でも議論になっているとのことでした。ランチ中の懇談で、金田さんが「環境設計とは負荷(空調熱負荷だけでなく環境や人体への負荷)を減らすこと」というドイツの考え方を紹介したところ、担当の方は「短い言葉で伝えられるのはいいですね」と腹落ちしたと言います。
しかし、もう一つ頭を悩ませていることがありました。日本ではまだ環境設計という部門の実例が少ないため、建築に携わる他の職能(建築、設備、構造)と環境設計の業務報酬や会計項目をどのように関連付け、位置づけていくべきか、その最適解が見出せずにいるとのことでした。
それに対して、他のメンバーが様々な角度から意見を出し合いました。興味深いコメントが多く出た中で、私(高橋)の印象に残った意見の一つを紹介します。日本では建て直すことが前提で建物の設計から依頼を始めるけれど、欧州ではそれ以前の段階で、環境負荷を計算して最適解を探っているとのことでした。その計算を踏まえて、どこに建てるのか、あるいは新規に建て直すのが良いかどうかを検討するのです。
日本でも本当の意味の環境設計を実現するには、建築が決まってから関わるのではなく、もっと前の段階から、コンサルタントとして関わる必要が出てくるようです。物件にもよりますが、私(高橋)は、環境設計という考え方は、ビジネスとして極めて初期の段階から関わる職能であると理解することができました。
この議論を聞いていた金田さんは、このようにコメントしました。「新しいことにチャレンジすると、いつも大切になるのが、『自分自身が何者か』という問いかけです。これまで名前のなかった職能、立場を確立し、ブランディングしていくために、今後も各国の取り組みを紹介したり、各分野の専門家の方との交流の場を設けたりしたいと思います」。
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オンラインアンケートより
ワークショップの最後にとった恒例のアンケートでは、多くの方が今回のような意見交換やネットワークに意義を感じていました。アンケート結果から、具体的にいくつかご紹介します。
「ご自身の業務で課題に感じていることは?(具体的に)」という質問には、「施工者の高齢化と人材不足」、「社内に対する合意形成、社外への発信力不足」、「社内の意識改革が遅い」、「脱炭素の取り組みを数値ありき、数値至上主義に陥らないようにするにはどうしたらいいか」などの課題が挙がりました。
また、『本日の交流を通じて、ご自身が「今後やっていきたいこと」や「取り組みたいテーマ」について、新たな発見や考えの変化はありましたか?』という質問には、「自分の再定義、価値の創造」「環境性能の高い不動産のファイナンス」「参加者間での異業種交流を進めて新規事業に生かしたい」などのコメントがありました。
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ランチミーティングを終えて
U100として初のランチミーティングを終えて、金田さんが言いました。
「ここにいる方は皆さん、日々いろいろなチャレンジをしていると思います。私もそうですが、チャレンジしようとすると、現在値との差分が生まれて、とても苦しい思いをします。でもそんな時、ここにいるような仲間たちの顔を思い浮かべるんです。自分1人じゃないんだと。意見や悩みを共有することって本当に大事だと思います。このような交流の機会を、今後もつくっていきたいと思います」。
私(高橋)も、楽しい雰囲気の中で、中身の濃い議論を聞くことができて、とても充実した時間となりました。美味しいお食事をいただきながら、ゆったりと語りあうこのような場から、また新たな動きや変化が生まれてきそうな予感がしています。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)
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