ZEB Readyと風土の融合 - 川上村発、持続可能な地域デザインの最前線
Nagano
2025年10月23日、U100 Initiativeは、「U100 Workshop 2025.10 ZEB Readyと風土の融合 - 川上村発、持続可能な地域デザインの最前線-」を開催しました。U100 Initiativeのメンバーでジャーナリストの高橋真樹が、その概要をレポートします。
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概要
今回は、長野県川上村で、地域固有の風土をデザインモチーフとした新庁舎及び交流防災センターを見学しました。参加者同士のディスカッションや、設計を担当した株式会社エーシーエ設計様、外断熱メーカーのシュトージャパン株式会社様による解説を通じて、地域と建築の融合、持続可能な地域デザインについて探求しました。
まず、川上村の特徴について紹介します。長野県の最東端に位置する川上村は、千曲川源流の里山です。標高1000メートルを超えるこの村は、冬はマイナス20℃にもなります。その寒さを利用して高原野菜の栽培が盛んで、特にレタスの生産量では日本一を誇っています。また、空気が澄んで星空がよく見えるこの村では、現役の宇宙飛行士もいます。川上村出身の宇宙飛行士・油井亀美也(ゆいきみや)さんは、村の満点の星空を見て育ったことで、宇宙飛行士になる夢を抱いたと語ります。
そんな川上村に新しくできた新庁舎及び交流防災センターは、長野県内で初めて「ZEB Ready」を達成した市町村の公共施設として、2023年5月に開庁しました。また、標高1185メートルと、日本一標高が高い所にある役場でもあります。
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見学・発見
当日は、全国から建設関係企業の社員や自治体職員、メディア関係者ら、約20名ほどが川上村役場に集合。挨拶もほどほどに、さっそくワークショップが始まりました。説明を受ける前に建物内を自分で歩き回り、疑問点や気になる部分を探す時間です。気になった部分は写真に撮って、コメント共に専用のLINEグループに投げかけて行きます。この探求の時間は、U100 Initiativeの見学会ではお馴染みの光景になりました。
今回の対象となる村役場は、防災交流センターを兼ねた2階建ての建物なので、自由に探求する時間はたっぷり1時間ありました。それでも、筆者をはじめ参加者にとって気になる部分が多すぎて、あっという間に時間が過ぎていきました。
木とアルミが一体となった窓や外断熱の壁といった性能に関する建材はもちろん、建物の内外にふんだんに用いられた木材、各部屋に設けられた大きな輻射パネル、天井や照明のユニークなデザインなど、注目ポイントは多くあります。また、機械室の状況や太陽光発電をチェックした参加者もいました。
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共有とディスカッション
次に、発見した内容を参加者が発表し、設計者の方を交えてディスカッションを行いました。ここでは主に参加者の関心が高かったサッシや木質化、温熱環境、設備面などを中心に報告します。
- 複合サッシと木質化について
窓枠のほとんどはアルミサッシ(ガラスはペアLow-E)でしたが、もっとも村民の目につきやすい役場事務スペース部分の窓の内側などには、木枠がついていました。このアルミと木の複合サッシを採用した意図と、使い分けについての質問が出ました。
設計者の方によれば、意匠性や断熱性を考慮して、村民ホールや執務エリアなどの要所で複合サッシを採用したとのことです。こうした複合サッシは、木材利用や環境負荷低減の傾向と合わせて、以前よりも相対的な価格も下がってきており、使いやすくなっているとのことです。なお木製サッシには、集成材を使い、伸縮のリスクを抑制しています。木製サッシの樹種は、川上村産のカラマツになります。川上村はカラマツの産地としても知られており、サッシ以外にも、壁や天井の一部などにも採用されています。
- 輻射パネルと温熱環境
各部屋には、冷暖房用の輻射パネルが備え付けられています。北海道や欧州では一般的に使われていますが、ここまで大きな設備は多くはありません。さらに本州の公共施設に限れば、かなり珍しいと言えます。この輻射パネルについての話や、夏と冬の温熱環境についての質問も多く出ました。
設計者の方によれば、空調方式に輻射式を選択した理由は、設計段階がコロナ禍だったため、気流を生まない対応策が求められたことが大きかったとのことです。輻射パネルの熱源には、地中熱ヒートポンプを活用しています。南側の駐車場に75mの穴を44本施工しています。設計値では、一次消費エネルギー約50%削減の計画でしたが、竣工後1年の報告では、計画を上回る一次エネルギー63%削減、太陽光発電を含めると70%の削減を達成しています。
稼働率の高いスペースは輻射パネルもしくはファンコイルを使用し、必要に応じて併用もしています。冷暖房ともに輻射パネルが主流なので、気流が少ないため埃が立ちにくく、音も静かと好評です。
冬の川上村の気温は、マイナス20℃になることもありますが、輻射パネルを窓際に並べることで、冷気の相殺と、窓ガラスへの結露防止の対策になっていました。窓のサッシはアルミですが、そのような対策により、もっとも寒い時期でも結露はしないとのことでした。なお、川上村は空気が乾燥しているため、太平洋側の建物では同じようには考えられないのではないかという意見も出ました。
輻射パネルには、立ち上げ時間が長いという特徴もあります。そのため、役場では「電源を切らない」運用を基本としています。タイマーで朝6時に立ち上げ、その後は7割程度で夜まで運転を続けます。そのため、休日を空けて出勤しても、寒くはならないとのことでした。
役場の担当者の方によれば、以前の役場は築50年ほどのコンクリートの建物で、冬は極めて寒く、夏も近年の猛暑により暑かったのですが、新しい役場の温熱環境に、職員の方たちも大満足しているとのことでした。
- 設備面(太陽光と蓄電池)
設備面では、太陽光発電と蓄電池の話を中心に、自家消費しているか、設備容量の意図などの質問が出ました。
村役場は交流防災センターを兼ねているため、非常時にも最低限度の運用ができるように容量を計算した上で、太陽光発電と蓄電池を設置しています。太陽光発電は出力44kW、蓄電池は20kWです。太陽光発電の容量は、50kWを超えると管理者を置かなければいけなくなるため、その手前で留めているとのことでした。なお、太陽光で作った電力は、基本的には自家消費しています。なお、パネルは意匠性を重視して、外観からは見えにくい場所に設置しています。
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情報提供
情報提供の時間では、株式会社エーシーエ設計様から設計コンセプトや災害対策などについて、シュトージャパン株式会社様から外断熱材について、それぞれ説明いただきました。
- 株式会社エーシーエ設計 跡部様、小林様より
設計コンセプトと空間デザインには、 川上村固有の資源である「千曲川源流」「星空」「レタス」「カラマツ」といったキーワードを取り入れ、ストーリー性を重視しました。村民ホール天井には、銀河の多様性を表現しました。また、千曲川の源流・蛇行のモチーフを、廊下の天井や議場に展開しています。また、風景の継承を意図して、地域産材であるカラマツを各所に使用しています。
来訪者に強い印象を残すのは、木材を多用した外観です。特に大きく張り出した長い庇は象徴的です。この庇は、外壁の汚れの抑制と日射遮蔽を意図して設置したものでもあります。
また、交流防災センターを兼ねているため、防災計画の点でも設計上の工夫がありました。公民館エリアは災害時に避難所となり、役場は災害対策拠点として稼働します。それぞれゾーニングにより、導線を管理しやすい配置になっています。平常時のレイアウトを維持したまま、災害対応に転用できることで、復旧の迅速化が図れます。
なお、ハザードマップの「100年の確率で50センチの浸水」という情報を考慮して、役場の土地は約60センチ嵩上げがされています。さらに電気室やサーバー室などは、万が一の水害リスクに備えて、2階に設置しています。
- 川上村役場新庁舎の費用について
ワークショップではお尋ねする時間がありませんでしたが、新庁舎の建設費について、追加でエーシーエ設計様、及び村役場のご担当者様に確認しました。
新庁舎および交流防災センターの総建設事業費は、約17億7650万円になります。それ以外では、地中熱設備設置工事に約1億4190万円がかかっています。補助金は、主に庁舎のZEB化を実現する際に行った省エネに関連する費用として、約2億8947万円が入っています。
川上村は、交付金などの資金を、基金を通じて積み増ししていました。それが、新庁舎の建設に多くの財源を投入できた理由です。また、材料費が高騰する前に、主要部分の購入手続きが済んだことも、問題なく建設できた要素になったとのことでした。
- Sto Japan 株式会社 鈴木様より
新庁舎の外壁全体には、一部を除いて、ドイツのSto社が開発、製造した厚さ100ミリの外断熱材が使用されています(防災センター部分のみタイル張り)。欧州の外断熱システムの特徴は、透湿性能があること。「壁が呼吸する」ような仕組みになっているため、壁内結露が起こりにくくなっています。
外断熱システムは、RCの壁よりも長期耐久、防汚、防カビなどで優れているとされています。欧州では1964年から長期使用されている実績があり、ドイツのフラウンホーファー研究所の評価では、60年以上使用できるとされています。またSto社の仕上げ材はドイツで製造されるため、現場でスムーズに施工できるだけでなく、製品によるバラツキがありません。
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アンケート結果と筆者の感想
最後に行ったアンケートでは、「木材活用と意匠性の高さが印象的でした」、「どのような想いで設計したのか、設計者様の生の声が聞けてよかったです」、「庁舎を地域住民の資産となるよう計画することの重要性を再認識しました」といったコメントをいただきました。
最後に、取材を終えた筆者の感想を述べたいと思います。これまで、さまざまな役場を訪れたことがありますが、温熱環境については劣悪か、無関心なところが多かった印象があります。特に役場の環境が良いと住民からクレームを言われることを恐れて、あえて環境を悪くしているのではないかと疑われるような事例も数多く見てきました。
寒冷地にも関わらず、夕方5時になると職員が働いていても強制的に暖房を切るような職場も珍しくありません。しかし、役所で働く人たちが元気でいられなければ、市民生活に支障をきたします。また、どれだけ我慢しようと、建物が断熱されていなければ無駄な光熱費がかかり、住民の税金が無駄になります。ましてや役所は、災害時に住民の避難所や司令部の役割を果たします。
これからは、川上村役場のように、断熱と高効率設備により、省エネで快適に過ごせる役場を当たり前にしていくことが、住民にもさまざまなメリットがあると感じてもらうのが大切だと感じました。今回、他の地域の自治体の方が見学に訪れましたが、今後も多くの人に訪問してほしい場所だと思いました。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)
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Workshop 2025.10 · Thursday, Oct 23 📸
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