実体験!木造建築のバリューチェーンを探る
Tokyo
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2025年7月25日、U100 Initiativeは、ファーストプライウッド株式会社の協力のもと、「U100 Workshop 2025.07 実体験!木造建築のバリューチェーンを探る-脱炭素と100年価値への道筋-」を開催しました。U100 Initiativeのメンバーでジャーナリストの高橋真樹が、その概要をレポートします。
01
概要
ワークショップ当日は、U100 Initiative の会員やスタッフ合わせて13名が参加しました。青森県六戸町を訪れ、ファーストプライウッドが関わる木造建築のバリューチェーンを見学。また、持続可能な木造建築のあり方についての意見交換も行いました。ファーストプライウッドは、住宅用木材を生産し、プレカット加工をしている企業で、木材の取扱量では国内トップクラスを誇っています。
02
新設の町立図書館と六戸学園の見学
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まず訪れたのは、今年(25年)6月にオープンしたばかりの六戸町立図書館です。約600平方メートルの木造平屋建てで、開放感あふれる空間が特徴です。図書館は、同じく4月から開校した9年制義務教育学校「六戸学園」の敷地内に建てられています。「六戸学園」の児童、生徒はもちろん、広く町民に開放された図書館として、地域と教育が連携する新たなモデルケースとして注目されています。
私たちが訪れた際も、夏休み中とあって多くの親子連れや子どもたちが利用していました。天井が高く、窓が大きいことや、木を組み合わせた天井や壁の、遊び心あるデザインが、居心地の良い空間になっていました。
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次に、隣接する六戸学園を訪問しました。この学校は、町立の小学校3校と中学校2校の、合わせて5校を、1校に再編して新設したものです。4月から通学する児童、生徒はおよそ840名。小学生から中学生までの9学年がともに一つの校舎で学ぶスタイルは、青森県では初めての試みです。校舎は木造3階建て、全教室に電子黒板があり、壁3面にプロジェクターを映せるICT専用の教室も設けられています。また、教室には木製の内窓も設置されており、寒い青森の冬でも快適に過ごせそうです。
大階段の中央は、階段2段分のサイズで座れる仕様になっており、そこで子どもたちが遊んだり、時間を過ごしたりしているそう。当初は、中学生と小学生が同じ校舎で学んで大丈夫か、という懸念もあったそうですが、このようなスペースの工夫もあって、大きな子が小さな子の世話をする関係が自然とできているようです。木の良い香りと温もりを感じる校舎で、のびのび育つ子どもたちの姿が想像できました。
なお、図書館と学校の柱や梁、バルコニーなどには、ファーストプライウッドが木材を加工して製造したLVL(単板積層材)が使用されています。
03
木材の伐採現場の見学
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次に訪れたのは、木材の伐採現場です。この日は、青森とは思えない暑さで、気温35℃にもなりました。そんな中でも、もちろん伐採作業は続けられています。今回は、ファーストプライウッドが原木を仕入れている伐採現場で、スギやカラマツの重機での伐採と、チェンソーを使った人の手での伐採を披露いただきました。
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一般的に日本の山林は急峻で、欧州の重機が使えない場所が大半です。しかし青森の森林は国内では珍しく、平らな土地に木が生えている場所が多く、欧州で開発された重機をそのまま使うことができます。デモンストレーションでは、20メートルほどの高さの大木を「ハーベスタ」という重機で挟み込み、そのまま伐採していきます。あっという間に、大木が切られていきました。
それでも、場所によっては人の手で伐採しなければならない所もあります。重機のように簡単にはいきませんが、チェンソーで何度か切り込みを入れ、狙った方向に木が倒れるようにくさびを打ち込むと、ズシーン!という地響きとともに木が倒れました。こうして伐採された木材は、この伐採現場からは月にトラック約200台分が、ファーストプライウッドに運ばれています。
なお、ここでは基本的に木材を皆伐していますが、その後にファーストプライウッドの社員が年に一度、工場で温度管理をして育てたスギの苗を植樹しています。人工林を伐採してまた新たに植えることで、循環型の木材利用を行っているのです。
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04
ファーストプライウッドの企業紹介と工場見学
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ファーストプライウッドの工場に移動した後は、企業紹介を受け、LVLの加工工場を見学しました。ファーストプライウッドは、日本の住宅供給のシェア1位を誇る飯田グループホールディングスのグループ企業として、木材の製造、加工を行っている会社です。特に、青森工場では住宅構造用部材のLVLの生産業務を行っています。
LVLとは、木材を桂むきにして薄い板状にしたものを何層も貼り合わせた木材加工製品です。単板の厚さは2〜4ミリ程度。般的には構造材・下地材として用いられています。LVLの特徴としては、「木材を無駄なく使うため、資源の有効活用ができる」、「用途に応じた寸法の製品が簡単に作れる」、「製品の強度などの品質にばらつきが少ない」といったことが挙げられます。
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実際に、LVL製造工場の中を見学させていただきました。工場では、運ばれてきた原木を所定の長さにカットし、皮をむき、高温の蒸気で乾燥させる蒸煮処理を行います。その木材を大根の桂むきのように回しながらカットして、薄い板(単板)を作ります。乾燥させた単板をつなぎ合わせ所定の長さにすると、全面に接着剤を塗り、貼り合わせます。その後、常温でのプレス、高温でのプレスを経て、所定のサイズに裁断して出来上がります。桂むきから裁断までの工程は、ほぼ全自動で行われていました。
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LVL製造のメリットは、無駄が少ないことです。これまで構造材には不向きだったら細めの木も含めて、資源を有効活用できます。そのため、既存の集成材などよりコストダウンができています。また、工場内の熱源は、LVL製造の際に出る木くずや端材などを利用したバイオマスボイラーの蒸気を活用しています。エネルギー面でも、循環型の木材利用が行われているということになります。
ただし、大型機械が何台も動く工場内は、外よりも暑く、40℃近い室温になっていました。私たちは、2時間ほどの工場見学だけでフラフラになりましたが、中で働く人たちは本当に大変です。このまま気温上昇が続けば、近いうちに、工場の建屋の断熱化やエアコンの設置は不可欠になるのではないかと感じました。
05
共有(ディスカッション)とアンケート
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意見共有の場では、伐採現場やLVLの製造過程に驚きの声が上がりました。いくつかを紹介します。
・伐採現場を訪れて、家や家具を利用することは、60年かけて育った木の命をいただいているのだと実感できました。
・LVLの存在を初めて知りました。市場での流通量が、CLTより遥かに多いことを知って驚きました。
・設計をしているので、プロジェクトの川上から関わっているつもりでしたが、今回は伐採現場を訪れてさらにその上流を見学できました。材料がゼロから1になる現場を見ることができてよかったです。
・山から製品まで一貫して無駄のない製品作りを学べました。
最後に行ったアンケートでは、以下のようなコメントをいただいています。
・70年前に植えた苗木がようやく今伐採の対象になるとのことで、長年事業が引き継がれてきた、スケールの大きさを感じました。
・自動化していること、素早くLVLが出来上がること、材料効率に驚きました。だからリーズナブルなコストなのでしょうか。
・自然の命をいただく仕事が持つべき倫理感や社会的責任を学びました
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06
取材を終えて(筆者の感想)
これまで、バイオマスの取材などのため、伐採や製材の現場を何度か訪れたことがありますが、今回は伐採から加工、建築、そして植林と、木材利用の循環ができていることを肌で体感する貴重な機会となりました。また、他の方もおっしゃっていたように、LVLという存在自体を知らなかったので、今後、注目していきたいと思います。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)
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