サーキュラーエコノミー実現への第一歩とは?
Saitama
Workshop 2024.09 : サーキュラーエコノミー実現への第一歩とは?
U100 Initiativeは、株式会社竹中工務店および東明興業株式会社の協力を得て、2024年9月20日に「Workshop 2024.09 サーキュラーエコノミー実現への第一歩とは?」を開催しました。「断熱ジャーナリスト」の高橋真樹が、その概要をレポートします。
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中間処理施設とは?
ワークショップ当日は、U100 Initiative の会員やスタッフ計32名が参加し、埼玉県所沢市にある東明興業の中間処理施設を視察しました。この施設は、廃棄物を最終処分する前に、処理・加工・選別を行う場所です。視察後、サーキュラーエコノミーの実現方法について、参加者同士でディスカッションを行いました。
サーキュラーデザインビルドの未来像
まず竹中工務店より、サーキュラーエコノミーの取り組みと、このワークショップの趣旨についての説明がありました。竹中工務店では、サーキュラーエコノミーの考え方を設計や施工に落とし込むため「サーキュラーデザインビルド」というコンセプトを掲げています。具体的には、これまでのスクラップ&ビルドの建築から脱却し、2050年には廃棄物をゼロにすることを目標にしています。その実現のための重要なパートナーが、今回訪れた東明興業です。
次に東明興業より、会社の事業と廃棄物処理の現状について紹介がありました。東明興業は、日本のハウスメーカーやゼネコンなど、建築系の廃棄物を中心に、約800社からの廃棄物を引き受け、中間処理を行なっています。かつては廃棄物を持ってきて燃やすか埋めるという処理がほとんどでしたが、現在は容量の約95%(※)をリサイクルしています。
特徴としては、解体業社からの廃棄物持ち込みは受け付けず、社員が解体現場に赴き、分別、収集、運搬を行い、自社処理を行なっていることです。建設現場の企業と共に取り組む姿勢により、リサイクル率を大幅に上げることができています。
また、ゴミの減容化にも力を入れています。スマートゴミ箱「SmaGo(スマゴ)」やプラスチックゴミを圧縮するコンテナ型容器などを開発・建設現場への大量導入を行い、ゴミの量を減らすことで、トラックの必要代数やそれに伴うCO2を削減しています。
※95%のリサイクル率の内訳は、再生利用率(マテリアルリサイクル)61.2%、熱回収率(サーマルリカバリー)30.1%、減量化率2.9%で、合計94.2%となります。なおサーマルリカバリーは、日本のみ認められています。
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廃棄物が新たな資源に生まれ変わる現場
中間処理施設の見学では、参加者一同、ヘルメットにマスク、そして不織布でできた防塵服を着用し、案内のもと各エリアを見て回りました。大量に届けられた廃プラスチック類、コンクリート、瓦礫類、ガラス、木くず、金属類、石膏ボードなどはそれぞれのエリアに集められ、重機で破砕されていました。その後、人の手によって種類ごとに分別されてきます。
廃プラスチックといっても、大きく分けても何種類もあり、私たち素人ではぱっと見では見分けがつきませんが、プロの方たちは効率よく手作業で選別していました。廃棄物全体の約80%は、こうした人の手によって荒選別が行われるとのことです。
その後、機械でふるいにかけられ、瓦礫や金属類は重さごとに分けられます。さらに、その先のコンベアでは、再度、人の手による選別が行われていました。リサイクル率の高さは、こうした手間をかけた作業によって成り立っています。
東明興業では、堆積ゼロ運動も進めています。廃棄物ヤードに溜まった堆積物を、3ヶ月に一度、一旦ゼロにしてリセットするものです。それが、安全でクリーンに廃棄物を管理していることの証明となっています。なお、この日は9月後半ながら気温は30℃を超えており、防塵服をまとった私たちは、ただ見て歩いているだけでも汗が止まりませんでした。猛暑の中で淡々と作業を続ける作業員の方たちの苦労が想像できました。
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終わらない議論、廃棄時の責任を再認識する参加者たち
施設見学後のディスカッションでは、驚きや発見の声が相次ぎました。「解体現場を見ることも、作る側の責任であると痛感した」と言う声や、「もっと埋め立てが多いと思っていたが、リサイクル率が高いことに驚いた」という反応もありました。ある設計者の方は、「設計するときはあたかも更地になっている前提で線を引くけれど、そこにはすでに既存の建物があるはず。その建築廃材がどこに行くかまで考える必要があると感じた」と語りました。
多くの参加者が気になったのは、自分が作ったり扱ったりしている建材の処分についてです。「発泡系断熱材を使っているが、解体や処理が厄介であることを知った。こういった材料を扱っている現実をもっと知る必要があると思った」というものや、「設計の時点でいかに解体しやすいものを作るかという視点が大切だと思えた」という声もありました。
関連する話では、見学中に廃棄された鏡を見つけました。これはガラスとプラスターボードが接着されているので、リスクを犯して分離しようとすると作業員が怪我をする恐れがあるため、埋め立て処分しかないと伝えられました。それを見た設計士の方からは、「設計時から分離しやすいプロダクトを採用すれば、資源が無駄にならないとわかった」との声が出ました。実際、サーキュラーエコノミーが重視されている欧州では、分解しやすい製品や、接着しないで接合する製品を多く取り入れ、解体のしやすさやリユース率の高さを実現している企業も増えています。
東明興業ではこれまで培った中間処理のノウハウを活かし、解体や処理のしやすい建材開発の支援も行っています。ただし、実際には建材を作ってから処分の仕方を相談されることが多いようです。東明興業のスタッフの方からは「できれば作る前から相談していただき、共に循環型社会を築いていきたいと思います」というコメントがありました。
現在は、使い終わった資源を捨てれば済む時代ではありません。それは、環境面だけでなく、経済的からも求められるようになってきています。金田さんによると、欧州ではサーキュラーエコノミーの取り組みが進んでいますが、各メーカーがリサイクル原材料の調達量やコストに限界を感じ、廃棄物の回収や分別を自社の事業事業に組み込む企業が増加しているとのことでした。これまで資源を利用して製品を供給してきた企業が、資源の回収や分別にも積極的に関与し、「資源供給者」としての役割を担うという傾向は、今後はよりニーズが高まってくるはずです。
今回のワークショップは、予定していた終了時間になっても、発言や対話が続きました。それだけ、参加者にとって多くの刺激と発見にあふれる機会になったことは間違いありません。
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取材を終えて(筆者の感想)
私が、建築廃棄物の中間処理施設を訪れたのは2回目です。訪れる度に感じるのは、社会全体で、製品を作ることや使うことへの意識に比べ、廃棄への意識が欠けているのではないかという思いです。こうした廃棄物処理の実情や現場の苦労は、建築関係者に限らず、あらゆる人に見て聞いて、知って欲しいと改めて思いました。これからの建築は、解体や廃棄のことも含めてデザインすることを当たり前にしていかなければ、真のサーキュラーエコノミーとは呼べません。その際、こうした廃棄物処理の現場の人たちとのコミュニケーションが重要なカギを握ってくるのではないかと感じました。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)