木造環境建築とプレファブリックの関係とは?
Shizuoka
U100 Workshop 2024.07:木造環境建築とプレファブリックの関係とは?
U100 Initiativeでは、2024年7月12日に視察とワークショップからなる「木造環境建築とプレファブリックの関係とは!?」を開催しました。「断熱ジャーナリスト」の高橋真樹が、その概要をレポートします。
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概要
今回の開催場所は、静岡県富士市にある旭化成ホームズの研究所内にある試作棟です。旭化成ホームズは、2023年にオーストリアのCREE Buildings社と業務提携をして、環境性能の高い木造建築物の構法研究や開発を行っています。プロジェクトは、CREE社のCと旭化成のAから、CbAプロジェクトと名付けられています(bはbyの意味)。この3階建ての試作棟は、プロジェクトの構法開発の一環として建設されました。特徴は、プレファブリケーション手法によって、極めて高い環境性能を実現した外壁パネルに加え、工期の短縮を実現した木造とPC(プレキャストコンクリート)のハイブリッド床パネルにあります。
当日は雨模様でしたが、ワークショップには各社から合計21名が参加しました。旭化成ホームズではこの試作棟を外部の人に公開するのは初めてということで、筆者も緊張感とワクワク感の入り混じった気持ちで訪れました。
※試作棟の技術的な詳細については一般公開前のため、今回の記事ではお伝えしていません。
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ワークショップの流れ
今回のワークショップは、詳しい説明をせずに、まずは試作棟内を各自が自由に歩き回り発見・観察するところから始まりました。参加者は1階から3階まで上り下りしながら、建物を見たり触ったりして、気づいたこと、気になったことをスマホのアプリを通じて、ワークショップ参加者の共有アンケートに投稿していきました。試作棟で完成状態になっているのは3階だけ。1階と2階はあえて壁の中などが見えるように、スケルトン状態になっています。また、模型や使用されている建材のサンプルの展示もしてありました。どれも興味深いものばかりで、制限時間として設定された20分は、あっという間に過ぎていきました。
次に3階に集合して、参加者から出た気づきをアンケート結果を見ながら共有。旭化成ホームズでCbAプロジェクト長を務める菊地訓さんや、他のプロジェクトメンバーが、参加者の疑問や気づきに答えていきました。説明を受けた参加者からは、驚きや納得の声が聞けました。
U100 Initiativeの代表を務める金田真聡さんによれば、こうしたアクティブラーニングの手法はドイツではよく用いられているとのこと。筆者も、はじめから説明ありきではなく「何だろう?」「こうじゃないかな!」と五感を働かせることで、より深く理解することができたと感じました。
その後、CbAプロジェクトの意匠担当の土谷玖実さんからは、BIMを用いご自身で行った、ヨーロッパレベルの外皮性能の高い建物における熱負荷計算の結果や、J-CATを用いたホールライフカーボンの算定結果なども発表を行なって頂きました。
※J-CATは、ゼロカーボンビル推進会議のもとで開発された、建築物のライフサイクル全体を通じたCO2をはじめとするGHG(温室効果ガス)排出量の算定ツール。
また、オーストリアのCREE Buildings社で実践しているプレファブリック工法の短い動画を視聴し、設計や施工の省力化、建設時に使用する資源やエネルギーを半減できる点などについて意見を交わしました。
今回のワークショップは、全体を通じて2時間で終了しました。参加者のアンケートでは、印象に残ったこととして「プレファブリック工法での効率化、省エネ化を体験できた」、「発見型ワークショップで他社の設計者の方の視点を聞けた」、「一つの建物にたくさん技術がつまっていると感じた」といったコメントがありました。短い時間ながら、とても学びの多い時間となったことがわかります。
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主催者のコメント
主催者の一人で、旭化成ホームズでCbAプロジェクト長を務める菊地訓さんは、今回のワークショップで得たものをこのように語ります。
「設計に関わっていた内部のスタッフだけでは、バイアスがかかって見えない部分があると感じていました。そのため、開発に携わっていない方に体感してもらったらどう感じるのか、すごく気になっていたのです。今回はいろいろな方から意見をいただきました。基本的には私たちの建築の思想、考え方に、前向きな共感をいただいたことをとても嬉しく思いました。そして、今まで取り組んでいたことが間違っていなかった、という手応えを感じました。とても励みになります」
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取材を終えて(筆者の感想)
同業者に手の内を見せないことは、どの業界でも常識です。しかし今回、旭化成ホームズはまだ他社に見せたことのない試作棟を、U100 Initiativeのメンバーではありますが、他社の方々に公開しました。勇気のいることだったと思います。しかし菊地さんが言うように、見学する側はもちろん、旭化成ホームズ側にとっても、参加者との意見交換を通じて得るものは大きかったようです。
これは、実務者が企業の壁を越えてつながり、日本社会に高性能なビルを普及させていこうというU100 Initiativeの枠組みがあったからこそできたと改めて感じました。菊地さんも、「U100 Initiativeの取り組みは、とても刺激になっている」と語ります。こうした経験を通じて、他の企業にも変化が生まれてくるかもしれません。U100 Initiativeの今後の取り組みが、ますます楽しみです。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)