ドイツの最新ZEB事例と都市計画
Berlin
2050年カーボンニュートラル達成に向け、日本の建築業界は大きな転換期を迎えています。本視察では、約20年前に同じ転換期を迎えたドイツの建築・不動産・都市計画の例を取り上げ、ゼロエネルギービルディング(ZEB)を超えたカーボンニュートラル、脱炭素化に向けた先進的な建築や持続可能な取り組みの最前線をご紹介しました。
意匠設計、設備設計、建材など幅広い分野の方々に視察とともに、設計手法や政策についても深く理解いただき、これからのZEBを実践的かつ体系的に学べる内容となりました。
01
ネットゼロに向けた省エネ建築のあゆみ
2009年EU指令に基づき、ドイツでは外皮性能の向上を強力に推進してきました。そして現在では「Energy Efficient Firtst」として、広く社会に浸透した考え方となりました。
2006年に建設されたベルリン中央駅から始まる本視察では、今日まで歩みとして、エネルギー効率の向上にむけた様々な工夫を取り入れたプロジェクトを実際に見ていきました。
ピーク負荷を抑えることで、放射空調のみのシンプルかつ合理的なシステムが実現し、エアコンの風や音のない「適温・無音・無風」というドイツ型の快適なZEB空間も体感いただきました。ZEBやサステナビリティの観点に基づき、外断熱や日射遮蔽、放射空調、建材も含めた設計手法やエネルギーの考え方を体系的に解説しました。
HumbolthafenEins
トリプルガラスの窓と外断熱の壁がリズミカルに配置されたファサードデザイン。外皮性能の向上や熱交換換気による外気負荷の低減により、ペリメーターレス空調を実現しています。
CUBE Berlin
ガラスカーテンウォールの外観の建物物も、省エネ性能を担保するためにトリプルガラスの窓や外付けブラインドを採用しています。
Upper West Berlin
高さ118mの超高層の建築物でも、トリプルガラスや外部日射遮蔽などにより外皮性能が実現されています。また外断熱により躯体蓄熱も有効に活用しています。
実際に室内に入り、高断熱・高気密の換気フラップにより自然換気が実現されていることなど、ディテールにも触れていただきました。
トリプルガラスの窓の外には、暴風対策が施された外部ブラインドが設置されています。
EDGE Südkreuz
省エネルギーに加え、サーキュラー・エコノミーの観点も加わった、ドイツ最大級の木造PCハイブリッド建築も訪れました。写真はアトリウム内部。
参加者のコメント
スラブ打ち込み放射空調と除湿全熱交換機系統の外気システム、上下別制御外ブラインド、そしてなによりもまず静寂さが印象に残りました。
ファサードの考え方、とくに性能とデザインの処理の仕方が日本にはない考え方だと思いました。
広場に対して、高層ビルですらセットバックさせる徹底した都市計画に感銘を受けました。
02
これからの社会で建築が果たす役割
社会問題を解決するために、新しい技術や社会の変化に建築・都市計画がどのように適応してきたかを解説しました。ドイツにおける空家を増やさない政策の説明や、都市のスプロール防止にどのように取り組んできたかの実例を体感いただきました。
Berlin Hansaviertel
“Die stadt von morgen(未来の都市)” として、戦後の1957年にベルリン国際建築展に際して設計された地区。戦後のベルリンの再建と都市の進化に重要な影響を与えた、快適で機能的な住環境・都市計画を体感いただきました。
冷戦期における国際協力の象徴として、オスカー・ニーマイヤー、アルヴァ・アアルトといった国際的に著名な建築家が設計した集合住宅や、当時の時代背景をふまえて採用された設計技術や思想を解説しました。
Berlin City Model
ドイツの都市開発管理局が運営する都市模型。過去の開発履歴だけではなく、壁面線、高さ、ボリュームなどが規定された街区計画に基づき、将来建設される建物と都市の姿まで公開されています。
Garden City Drewitz
貧困とスラム化が進んでいた地域を、エネルギーを核に、建築・都市計画・交通の面で再生した都市改修事例のDrewitz地区を視察しました。
約39haの街区全体で、住宅だけではなく公共施設も含めて外断熱改修が行われています。地域には活気が戻り、子どもの数も増えています。
参加者のコメント
ベルリン市当局のコミットメントを非常に感じました。
スラム化していたエリアが人中心(車使用を減らす)、緑豊かで快適な住宅やコミュニティに生まれ変わったことに感銘を受けました。
既存住民への根気強い対話により、ステークホルダー全員にとって意義のあるプロジュエクトに仕上げた、そのエネルギーに大変感銘を受けました。
1人あたりの居住面積に対する考え方が印象的でした。様々な建物を視察し、ドイツの建物の1人当たり面積の大きさに豊かさを感じたが、環境の観点も含めた最適解を考える重要性を再認識した。
03
社会の一員として不動産や建築に対する考え方
一般の方との交流を通し、エネルギーの利活用や省エネ性能についての考え方を体感いただきました。一般の住戸で採用されている実用的な技術やデザインだけでなく、文化的・社会的な背景や政策支援、実践的なライフスタイルにも触れていただきました。
House in Berlin
ベルリンの郊外に4ds Int. GmbHで設計を行った戸建て住宅。厚さ285mmの断熱材を含む木造パネル工法が用いられています。トリプルガラスの木製サッシで外皮性能を高め、太陽光発電と蓄電池を活用し、年間を通したプラスエネルギーを実現しています。
Apartment Renovation
不動産改修の考え方、借主の意向など、建物を使う人の声を聞かせてもらいました。また築100年以上の集合住宅の改修で採用されたエネルギー効率の良い換気システムやサッシなどを見せていただきました。
地下の設備室まで見学
Nano Apartment
都心部における持続可能な住まいをテーマに、サテライトとして設計・改修したアパート。バウハウス由来の既存建物を尊重しつつ、日本人が得意とするコンパクトで豊かな暮らしをドイツで実現しています。現在は現地の家族が住んでいる住戸を、特別に訪問させていただきました。
参加者のコメント
施主の方の夢として造られたお宅は、全てが完璧だったと思います。扉一枚としても、必要なところに必要なものを、気密性やエネルギーの確保においても、これ以上無いといったものでした。
既存のサッシを活かしつつ、サッシ性能を飛躍的に向上させる仕組みが素晴らしい。
人、環境に対しメリットがあり、投資効果もある改修事例。環境と経済性を両立できるかは、アイデアと工夫次第と思った。
おわりに
ドイツでもZEBを一般化するまでには、長い時間と多くの試行錯誤がありました。本視察ではその変遷を直接見て体感して頂くことに、主催者としても大変意義を感じています。本視察での体験や知識を日本に持ち帰り、ZEBやカーボンニュートラルの実践に少しでも役立てて頂けることを願っております。