なぜ理想のZEBフローが実現できないのか
Tokyo

「断熱ジャーナリスト」の高橋真樹です。U100 Initiativeは、2024年5月29日に第2回ワークショップ「なぜ理想のZEBフローが実現できないのか」を実施しました。その概要をお伝えします。
第1回ワークショップのアンケート結果から、多くの参加者が「理想のZEB実現フロー」の必要性を感じていました。しかし、実現は容易ではありません。そのため今回は、なぜZEBができないのか、どうしたら実現できるのか、ということをテーマに開催されました。
ワークショップ参加者は、不動産コンサルタント、自治体の発注者、建築・意匠設計者、建材メーカーなど実務者約60名で、ドイツ(ベルリン)および日本をつないでオンラインで行われました。
マンションやビルなどの大規模建築では、多くのステークホルダーが関わります。しかし、建物の性能に関しては、必ずしもそのステークホルダー間のコミュニケーションが取れているとは言えません。そのため、異なる分野の実務者が集まり、視点やアイデアを交換することは画期的なことです。
01
個人ワーク
第一部では、個人でのワークを行いました。まずは、不動産開発企画から許認可申請に至るまでの7つのフェーズの、どの段階で各項目を検討すべきかにチェックを入れました。チェック項目は、環境性能、認証取得目標の設定、事業収支確認、仕様書作成、外皮性能設計、熱負荷計算、BEI算出、ギャップ分析、予実管理など、多岐にわたります。次に、この部分ができないために、ZEBフローが進まないというポイントを記述式でそれぞれに書いてもらいました。


大規模建築のプロジェクトでは、スタートしてから途中で認証をとっておきたいというニーズが出たとしても、その多くは後からでは対応しきれません。こうしたワークを通して、あらかじめ各ステークホルダー間で認識をすり合わせておくことがいかに大切か、ということがわかります。今回の参加者の間でも、設問に対する回答は、それぞれ異なるものでした。
なおこのワークは、U100 Initiative代表の金田真聡さんが、ドイツの環境設計でサーキュラーエコノミーを実現するためのワークショップで行ったもと同じ方法です。同じ組織内で働いていても、立場や部署によって、どの部分をどのタイミングで検討するかという認識にはズレがあります。こうしたワークを通じて、相互の違いを確認した上で、意識的にコミュニケーションを取ろうとする効果が期待できます。

02
インスピレーション・ダイアログ
岩田隆志様
梅木亮様
岩崎宏様
正木雄太様
東谷昇和様
鈴木浩之様
柳瀬真紀様
第二部「インスピレーション・ダイアログ」では、さまざまな立場の7名から、それぞれの視点で課題のあり方を短く語っていただいた上で、参加者からの質問を受けました。ここでは、それぞれの方のコメントの一部をご紹介します。
発注者の視点:
岩田 隆志様(不動産コンサルティング業)
ZEBは商品性能を上げますが、それにより収益が良くなるなど発注者側のメリットが必ずしも検証されていません。一番良いのは、発注者が社内でZEBの導入方針を決定するように持っていくことです。方針がない場合は、企画設計など最初の段階で、発注者と設計者が時間をかけてコミュニケーションをとり、ZEBの仕様を盛り込んでいく必要があります。


梅木 亮様(自治体職員)
公共建築の部署で働いていますが、行政組織の4つの壁を感じています。①ZEBは従来よりお金がかかると思われること、②初期コストだけで予算が査定されてしまうこと、③公共施設の設計基準にそぐわないこと、④縦割りの組織の壁です。①と②は試算をして、光熱費設備の更新費などのランニングで回収できることを伝えます。③は自治体独自でルールを作ったり、民間活用による性能発注で公共仕様を外したりという手があります。④は基本計画の段階で設計の専門職が入ることが大切です。
意匠設計者の視点:
岩崎 宏様(建築設計)
ZEBで感動体験ができていないことが大きな要因だと思います。個人の住宅とは異なり、ZEBは数値的なものが優先され感動体験をしている人がいない。まずは建築に携わる関係者が、「こんな空間が欲しい」と望む体験をすることができれば、それを共有し、伝えていけるようになるのではないでしょうか。
設備設計者の視点:
最大の問題は、目標の段階でそもそもZEBが目指されていないことだと思います。例えばテナントビルの場合、建築主とテナントの双方がZEBを目指さないと実現できない。現状ではZEBにするということは、イニシャルコスト増や床面積減といったデメリットに捉えられてしまうことがあります。ZEBにすることが会社のメリットになることが伝わるような報酬(評価指標や制限緩和等)を形成すれば、関係者がZEBを目指すようになるのではないでしょうか。
建材メーカーの視点:
東谷 昇和様(窓メーカー)
窓など、建物外皮の性能を高めることが必要だと考えています。既存の集合住宅の多くで用いられているのはアルミサッシの単板ガラスで、性能は壁の10分の1にも達していません。現在主流の複層ガラスでも、断熱材のない壁程度です。アルミサッシは結露が発生し、健康被害を出します。数値だけでなく、そこで住まう人の健康や快適さを考えて、結露のない暮らしを実現する必要があると思っています。

鈴木 浩之様(外断熱メーカー)
お施主様から、どうしたらZEBを取れるかと質問を受けます。我々は外壁だけなので、参考値のお話しかできませんが、実績などを通じて断熱材の厚みなどを参考にしていただいています。その辺りで、基準となるモデルがあるといいなと思っています。また、公共建築物はできることが決まっているため、断熱性能が足りなくても、自治体側から「これでいいよね」とされてしまうケースもあり、課題を感じています。
サスティナビリティ・コンサルタントの視点:
柳瀬 真紀様(コンサルタント)
私は環境性能評価認証システム(LEED)も手がけています。今回はLEEDv4に書いてある3つの手法を紹介し、理想のZEBフローに役立つヒントにしたいと思います。まず基本計画が完了する前に、簡易なエネルギー計算をすること。それを受けて、高性能で費用対効果の高い手法を探すこと。最後に、得られた結果を発注者要求書と設計根拠書などに反映して、建築主と共有することです。こうしたことにより、早い段階で目標設定がしやすくなります。
03
U100 Initiativeからの提案
最後に金田さんより、U100 Initiativeとしての2つの提案がされました。一つは政策提言です。金田さんは日本とドイツの研究機関や社団法人を結ぶ役割を担い、ゼロカーボンビル推進会議のワーキンググループ委員として活動しています。今後、U100 Initiativeの参加者の声をまとめて、政策提言をしていく方針です。
もう一つは、ステークホルダー間の対話を促す「ステークホルダー・ダイアログ」についてです。ドイツをはじめとするEUでは、ステークホルダー同士の対話がとても有効だと認識され、様々な場で取り入れられています。U100 Initiativeでは、ドイツ国際協力機構が公開している「ステークホルダー・ダイアログ・マニュアル」を要約して、参加者が活用できるよう提供を開始しました。

ワークショップの報告は以上です。私(高橋)は、大規模建築についての取材経験はそれほど多くありませんが、最初の段階でゴールを設定し、関係者と共有することの大切さは、ZEBに限らず大きなプロジェクトには必須であると改めて感じました。
また、キーワードにも上がっていた「ZEBの感動体験」が必要、というのは、まさしくその通りだと思います。私自身、エコハウスを体感して衝撃を受けたことが、人に伝えていかなければ、というモチベーションにつながっています。日本では性能の高い住宅やマンションが普及していないため、建築側の人たちでも高性能な建物の必要性を、体感から自覚している人は少ないのではないかと思います。
まずはその方達が体感できる場を増やしていくことで、大規模建築のあり方が変わっていくように思います。今回のワークショップを経て、対話や視察を通じて、ドイツと日本とを行き来するU100 Initiativeの取り組みは、非常に重要性を増していると感じました。
レポート執筆:高橋真樹
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。持続可能性をテーマに執筆。エコハウスに暮らす「断熱ジャーナリスト」でもある。著書に『「断熱」が日本を救う 健康・経済・省エネの切り札』(集英社新書)、『日本のSDGs -それってほんとにサステナブル?』(大月書店)ほか多数。エコハウスブログ「高橋さんちのKOEDO低燃費生活」(http://koedo-home.com/)、公式サイト(https://t-masaki.com/)

アンケート



























